カドヘリンによる細胞間接着に起因するシグナルの核内移行機構を明らかにするため、本研究では、α-カテニン依存性のシグナル伝達とβ-カテニンの関与したシグナル伝達に分けて研究を遂行している。 [α-カテニン依存性のシグナルと核への伝達] カドヘリン陽性でかつα-カテニン遺伝子に変異を持ためα-カテニン陰性である細胞(DLD-1細胞)でα-カテニンを発現させた結果、細胞の増殖は変えずに、スフィンゴシンにより誘導される細胞のアポトーシスに対する抵抗性が増大することが判明した。さらに、α-カテニン発現によりサイクリン依存性キナーゼの阻害タンパク分子であるp27kip1の発現が増大することが判明した。α-カテニン非発現株で遺伝子導入によりp27kip1の量を増やしてやると同細胞株のスフィンゴシンによるアポトーシスに対する抵抗性が増大することからも、α-カテニンからのシグナルの下流にp27kip1が存在することが予想される。いかなる機構でα-カテニンの発現がp27kip1の量を増大させるのかは現在のところ不明である。 [β-カテニンの関与したシグナルと核への伝達] β-カテニンの細胞内での動態を調べる目的で、アミノ末端側の領域を欠失させたβ-カテニン(β-カテニンΔ1-91)とGFPの融合タンパク質のコンストラクト(GFP-β-カテニンΔN1)を作製し、これを安定に発現する細胞のクローンを得た。その結果、GFP-β-カテニンΔNlは転写因子LEF-1発現細胞(LEF-1L細胞)では核内での存在が認められたが、親株のL細胞、あるいはβ-カテニン結合部位であるアミノ末端領域を欠失したLEF-1発現細胞(LEF-1ΔNL細胞)では、核への集積は認められるものの、LEF-1L細胞に比べてその程度が著しく低いことが判明した。そこで核から細胞質への輸送機構のひとつを阻害するレプトマイシンBを使ったところ、L細胞あるいはLEF-1ΔNL細胞でもβ-カテニンの核内集積が部分的に認められたことから、これらの細胞ではβ-カテニンは核に移行しているのだが、そこに保持されず、核外に輸送されているものと考えられた。
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