研究概要 |
本研究は,サツマイモ近縁野生種を含むヒルガオ科植物における胞子体型自家不和合性の分子生物学的機構を明らかにすることを目的としている.この自家不和合性は,1遺伝子座の複対立遺伝子(S遺伝子)によって支配されており,雌蕊と花粉との相互作用の結果,自己花粉の発芽阻害を引き起こし自家受粉が抑制される遺伝的機構である.本年度は,雌蕊の柱頭と花粉で発現するS遺伝子の転写産物を探索するため,これらの組織からmRNAを抽出しAMF(AFLP-based mRNA fingerprinting)法によって解析した.またゲノムDNAを用いたAFLP分析も行なった.その結果,これらの分析からS遺伝子座に連鎖している9本のDNA断片が同定された.そのうちのひとつ(AAM-68)では組換え体が検出されなかったことから,AAM-68はS遺伝子座に最も緊密に連鎖しているか,またはS遺伝子座内に位置する遺伝子であると推定された.AAM-68はGlucosyl transferaseと相同性があり,またノーザン分析から開花前日の雄蕊で特異的に発現していることが明らかになった.このようなことから,AAM-68クローンは雄蕊で発現するS遺伝子の候補であることが示唆された.さらにそれぞれの組換え頻度に基づいてS遺伝子座からの連鎖距離が求められ,精密な遺伝子地図を作成することができた.また,自家和合性突然変異体の遺伝学的解析を行ない,この変異体はS遺伝子座における突然変異によって自家和合性形質を示すことが明らかになった.さらに,雌蕊および雄蕊で発現する遺伝子のカタログを作成するため,cDNAライブラリーから約500クローンをスクリーニングし,これらの塩基配列の解析と発現解析を行なった.その結果,解析した約半分のクローンにおいて既知の遺伝子と相同性が認められ,それらの機能が推定された.以上のような研究成果をもとに,染色体歩行法などによって今後さらに詳細な分子的解析を行なう予定である.
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