研究概要 |
本研究は,サツマイモ近縁野生種を含むヒルガオ科植物における胞子体型自家不和合性の分子生物学的機構を明らかにすることを目的としている.この自家不和合性は,1遺伝子座の複対立遺伝子(S遺伝子)によって支配されており,雌蕊と花粉との相互作用の結果,自己花粉の発芽阻害を引き起こし自家受粉が抑制される遺伝的機構である.本年度は,S遺伝子座周辺の連鎖地図を作成するため,S遺伝子型に特異的と考えられるDNAマーカーを用いて,571個体からなるS遺伝子型分離集団のRFLP分析を行なった.その結果,S遺伝子座に連鎖する8種類のDNAマーカーを同定し,このうち4種類のマーカーはS遺伝子座から1cM以内に位置すること,およびこのうちのひとつ(AAM-68)はS遺伝子座と0cMで最も緊密に連鎖していることが明らかになった.このRFLP分析から,S遺伝子座近辺の精密な遺伝子地図を構築した.この遺伝子地図に基づいてS遺伝子をクローニングするため,S1ホモ型個体の核から高分子量DNAを単離し,約4万個のクローンから成るBACライブラリーを作成した.このライブラリーから,S遺伝子座周辺の4種類のDNAマーカーをプローブとしてBACクローンのスクリーニングを行ない,各プローブに対して強いシグナルを示す3〜10個の独立クローンを得た.これらのクローンの解析から,S遺伝子座両末端の範囲を0.1cM以内に限定することができ,この領域をカバーする約100kbのBACクローンを得た.本研究によって,S遺伝子座とその周辺領域のゲノム構造を明らかにするための実験的基盤が確立され,今後塩基配列の解析によってS遺伝子の同定へと研究の発展が期待できる.さらに,花粉形成時期に放射線照射を行ない,交配後代で誘発自家和合性変異体をスクリーニングした.その結果,誘発された変異体はS遺伝子座を中心とする染色体領域の欠失によって自家和合性に変異したことを明らかにした.
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