研究概要 |
ヒルガオ科植物は胞子体型自家不和合性を有しており,この自家不和合性は1遺伝子座(S遺伝子座)の複対立遺伝子によって支配されている.本研究では,サツマイモ野生種における自家不和合性の分子的機構を明らかにすることを目的として,(1)S遺伝子座を含むゲノムDNAの解析,(2)S遺伝子座欠失突然変異の解析,ならびに(3)生殖器官特異的発現遺伝子のEST解析を行った.まず(1)では,BACライブラリーのスクリーニングを行い,S遺伝子座領域をカバーする全長約230kbのBACコンティグを得た.このうち,S遺伝子座と0cMで緊密に連鎖しているBAC-683クローン(約50kbp)について,ショットガン法により全塩基配列を解析した.これらショットガンクローンをプローブとしてノーザン解析を行った結果,柱頭で特異的に発現している3種類の遺伝子と,葯(花粉)で特異的に発現している1種類の遺伝子が見出された.このうち葯特異的遺伝子は,Glucosyltransferaseをコードしていることが明らかになったが,S遺伝子型間で顕著な多型性は認められなかったことから,この遺伝子はS遺伝子座に座乗する遺伝子ではないと推察された.3種類の柱頭特異的遺伝子のうちの一つは,相同性検索においてヒットするものがなく新規の遺伝子と考えられる.これら柱頭特異的遺伝子については,今後S遺伝子型間の多型性を調査する予定である.次に(2)では,花粉の放射線照射から得たS遺伝子座欠失突然変異体(R101-1およびR31-2)について遺伝分析を行った結果,これら2つの突然変異体は共に欠失領域がかなり大きく,この欠失をもつ配偶子は雌雄ともに致死になることが明らかになった.さらに(3)のEST解析では,成熟期の柱頭および葯のESTクローンをプローブとしてマイクロアレイを作成し,これに柱頭と葯のターゲットDNAをラベルしてハイブリダイズした結果,糖代謝に関わる遺伝子(glucanase, galactosidase, pectin esterase, fructokanosidase等)は柱頭と葯の両器官で,PR-1は葯で,lipid transfer proteinは柱頭で特異的に発現していることが明らかになった. 本年度の研究から得た数種類の生殖器官特異的遺伝子について,遺伝子導入による形質転換実験などを通してそれら遺伝子の機能を今後明らかにする予定である。
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