研究概要 |
顕花植物の自家不和合性とは自家受粉では受精できない現象で、S遺伝子より支配されている。配偶体型自家不和合性を示すバラ科植物では雌しべ側S遺伝子産物がRNase T_2型の酵素であると同定され(S-RNase)、このS-RNaseを介して、雌しべ・花粉間の自己・非自己の識別反応が行われている。本研究では、バラ科ニホンナシを研究対象にS-RNaseの立体構造解析と花粉側S遺伝子産物の検出・同定に研究の焦点をあて、配偶体型自家不和合性の分子機構の解明を目指ざしている。 蒸気拡散法によりニホンナシS_3-RNascの結晶化に成功した。この結晶を用いてSPring-8の放射光X線装置により回折実験を行った結果、1.6Åの高分解能でのデータ収集に成功した。収集したデータをプログラムDENZOを用いて解析した結果、この結晶は空間群P21、単位格子a=45.394,b=52.409,c=47.406,α=90.00,β=106.601,Y=90.00という性質を有していた。しかし、重原子置換結晶は得られなかったため、S-RNaseとアミノ酸配列の相同性が高いニガウリ種子RNase MC1の立体構造を基に、分子置換法による位相決定を行い、極めて有力な解を得ることに成功した。現在、この解が描く電子密度図を基にモデリングを行っている。次に、S-RNaseと相互作用する花粉蛋白質の探索から花粉側S遺伝子産物の検出を試みた。大腸菌での発現に成功したグルタチオン-S-トランスフェラーゼとS_3-RNaseの融合蛋白質(GST-S_3-RNasc)と相互作用する花粉蛋白質をスクリーニングしたところ、花粉細胞膜画分に局在する分子量10kDa以下のCBB染色される物質がGST-S_3-RNaseと特異的に結合することが確認された。現在、質量分析、元素分析、アミノ酸分析などにより、この物質の同定を試みている。
|