(1)S-RNaseの立体構造解析 蒸気拡散法によりニホンナシS_3-RNaseの結晶化に成功し、放射光X線 (SPring8)を使用して1.5Åの分解能の回折像を得るのに成功した。次に、水銀および鉛の置換結晶を作製し、重原子同型置換法により位相を決定し、1.5Åの分解能でのS_3-RNaseの立体構造の解明に成功した。S_3-RNaseは6本のα-helix(αA-αF)と7本のβ-sheet(β1-β7)からなり(Fig.1)、植物由来の員RNase T_2型酵素であるRNaseLEやRNase MC1と全く同じ二次構造を形成していた。触媒部位を構成すると考えられるアミノ酸残基もRNase MC1の触媒部位残基の立体配置とほぼ一致した。S_3-RNaseとS_5-RNase(95.5%のアミノ酸配列の相同性をもつ)の比較により、HV領域のC末端に位置するHis61、Glu64、Asn77の側鎖が形成する空間部分がS_3とS_5を識別している可能性が最も高いと考えられた。今後、S_5-RNaseの立体構造を明らかにして、S-RNaseの認識部位を検証するとともに、花粉側因子の予測を試みる予定である。 (2)花粉側S遺伝子産物の探索 花粉(管)の細胞質可溶性蛋白質、膜蛋白質に対して、S-RNaseをリガンドとしたアフィニティークロマトグラフィーを行い、S-RNaseと特異的に結合する3種類の花粉管膜蛋白質(M.W.約70kD)を検出した。これらの蛋白質を2次元電気泳動で精製し、トリプシンによるin gel消化後、ペプチド・マスフィンガープリントを作製し、データベースで検索したところ、3種類ともレセプター型プロテインキナーゼとの相同性が示唆された。現在、MS/MSシーケンシングによりこれらの蛋白質の内部アミノ酸配列の決定を試みている。さらに、表面プラスモン共鳴を原理にしたIAsysにより、in-vitroでの花粉管伸長時に花粉管から培地に分泌される成分にもS-RNaseと結合する因子(M.W.約15kD)が存在することを見い出し、アフィニティークロマトグラフィーにより精製した。現在、この因子と自家不和合性との関連性も検討している。
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