(1)S-RNaseの立体構造解析 S_3-RNaseの結晶化条件を参考に600通り以上の条件でS_3-RNaseと95.5%のアミノ酸配列の相同性をもつS_5-RNaseの結晶化を試みたが、S_5-RNaseの結晶は得られなかった。 (2)花粉側S遺伝子産物の探索 (i)花粉側和合性変異種の発現タンパク質の解析 中国ナシ不和合性種とその和合性変異種の花粉(管)で発現している蛋白質を二次元電気泳動で分析したが、両品種間で顕著に泳動位置が変化したり、片方の品種で欠損している蛋白質は検出されなかった。 (ii)抗体による花粉側因子の探索 S_3-RNaseのHV領域とC末端領域(立体構造上、ともに分子表面に露出している)をそれぞれ認識するポリクローナル抗体、およびモノクローナル抗体(エピトープは調査中)を作製し、これらの抗体を用いてS_3-RNaseと相互作用する因子を検討したが、そのような因子は検出されなかった。 (3)In vitro花粉管伸長阻害実験系によるS-RNaseの挙動解析 ニホンナシ花粉を液体培地中で花粉管を発芽させた後、培地にS-RNaseを添加して花粉管伸長を観察した。この結果、S-RNaseの濃度が1.6mg/ml以上あれば、花粉管伸長阻害が起ることが判明した。次に、確立したin vitro花粉管伸長阻害実験系を用いて花粉管伸長阻害時におけるS-RNaseの動態を追跡した。S_3-RNaseは花粉管の細胞壁にかなりの量が吸着し、また花粉管内にも侵入し、その局在は花粉管内全体に及んでいた。この結果は、Luuらがイムノゴールド法によりS-RNaseが花粉管のチップ部分に蓄積されるとした報告と若干異なっている。
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