研究概要 |
1.本研究で使用することになる小脳顆粒細胞の初代培養系について基本的な性格づけを行い,次のことが明らかになった.1)顆粒細胞の分化指標としてneurofilamentの免疫染色を行ったところ,培養日数と共に神経突起を伸長させ8日目には繊細な神経ネットワークを形成した.2)DNAトポイソメラーゼIIα(トポIIα)の発現は培養初期からほとんど見られないが,トポIIβは最初から発現しており,培養過程で発現の増大が観察された.これは大部分の顆粒細胞が最終分裂を終えて分化過程に入っていることを示す.3)顆粒細胞の核DNAをHoechst33342で染色することにより,核の大きさとクロマチンの凝集度を測定したところ,培養過程で核の直径が増大し,クロマチンの脱凝縮が起こることがわかった.この変化はトポIIの特異的阻害剤(ICRF-193やエトポシド)を培地に加えることにより阻害された. 2.この顆粒細胞培養系で,神経細胞の分化関連遺伝子の発現をイムノブロットとノーザンブロットで経時的に調べた.トポII阻害剤を培地に加えたシリーズとの比較により,これらの遺伝子が次の3群に分類できることが明らかになった.1)培養過程で発現の誘導が起こり,トポII阻害剤で誘導が抑制されるもの(amphiphysin I, synaptophysin)2)誘導されるが,トポII阻害剤で誘導が抑制されないもの(amphiphysin II, GABAreceptor α6)3)培養初期からすでに発現しており,トポII阻害剤で抑制されないもの(Otx-2,GAP-43).この結果は分化の過程で発現が誘導される遺伝子にはトポIIβの活性に依存するものと依存しないものがあることを示している. 3.種々の解析から,これら文化関連遺伝子の発現誘導とトポII阻害剤の効果は転写レベルで起こっていることが明らかになった.神経細胞の分化過程においてトポIIβは特定の遺伝子領域のクロマチンを脱凝縮して転写の活性化を行うことが示唆された.
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