本年度は出芽酵母第三染色体の組換え開始点と複製装置の関係、また減数分裂期組換えとDNA複製の連携について解析を行い、以下の結果を得た。 出芽酵母第3染色体の複製開始点の一つであるARS310は、break-induced replication(BIR)という有糸分裂期染色体再編成や、減数分裂期組換えの制御への関与が示唆されている。BIRは、HOエンドヌクレアーゼによる染色体切断が契機となって引き起こされる組換え修復型DNA合成であり、RAD51非存在下の条件で顕著に観察される。第3染色体上のBIRの起点はARS310付近の領域になっている。ARS310を欠く場合、BIRは全く観察されなくなるが、ARS310の複製開始因子結合配列を改変してもBIRは正常に起きる。一方、ARS310領域に含まれる200塩基対の配列のみで、BIRが誘起され得る。本年度我々は、ARS310に関する種々の変異株を用いてその周辺のクロマチン構造とBIRの相関を調べた(米国Haber博士と共同研究)。その結果、組換え活性化に必要十分な200塩基対の配列のクロマチン構造における役割を明らかにした。一方、減数分裂期の組換え制御においては、ARS310を除いてもほとんど影響がないことを見出した。 減数分裂期の組換え開始は、必ず減数分裂期DNA合成後に起きる。そこで、減数分裂期DNA合成に特異的欠損を示す変異体(clb5.6二重変異株など)を用いて、DNA合成と組換え開始反応の相関を調べた(フランスNicolas博士、オーストリアKlein教授、米国Lichten博士との共同研究)。その結果、減数分裂期DNA合成に依存して、ホットスポット部位におけるクロマチン構造転換やDNA二本鎖切断・シナプトネマル構造の形成が誘導されることがあきらかになった。すなわち、減数分裂期のDNA合成と組換えが共役していることが示された。
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