組換え体ヒトMMP-23を作製し、293細胞で発現させたところ、MMP-23は2型の膜タンパクとして合成され、細胞内においてfurin様プロセシング酵素により切断されて分泌型へ変換された。この際、furinの膜結合領域を削除するとMMP-23のプロセシングが亢進しないことから、細胞内におけるMMP-23のプロセシングは膜上で行われる必要があることが示唆された。培養培地より組換え体MMP-23を精製し、その酵素としての特性を調べたところ、組換え体MMP-23は熱変性タイプIおよびIVコラーゲンを限定分解する活性を示したが、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、テネイシン、フィブリノーゲン、α1-アンチトリプシンに対して何ら切断活性を示さなかった。また組換え体MMP-23によるタイプIゼラチンの切断様式は他のMMP分子(MMP-2とMMP-14)とは異なる切断様式を示した。次にMMP-23の生理的な機能を検討するために、抗MMP-23中和抗体をラット卵巣の被膜下に注入したところ、正常血清を注入したラットや未処理のコントロールラットと比較して有意に排卵が阻害された。このことはMMP-23には他のMMP分子とは異なる基質特異性があり、排卵過程においてその酵素活性が関与していることを示している。 初代培養系ラット顆粒膜細胞を用いて、卵胞刺激ホルモン(FSH)によるMMP-23の転写抑制機序について解析を行った。FSHの作用により細胞内のサイクリックAMP産生が促進され、その結果、Aキナーゼとホスファチジルイノシトール3リン酸キナーゼ(PI3キナーゼ)の両者が活性化されることがMMP-23の転写抑制に必須であるが、更にPI3キナーゼの下流に位置するAktが関与することを新たに見出した。しかし、顆粒膜細胞内で単独にPI3キナーゼ/Aktの経路を活性化させてもMMP-23の転写抑制は起こらないことから、この転写調節には同時にAキナーゼからのシグナル伝達が活性化されている必要があることが判明した。
|