トロンボスポンジン・タイプIモチーフを有する分泌型のADAMファミリー分子であるADAMTS-1について、その生理活性および生体における機能について調べている。これまで私は、ADAMTS-1が細胞外マトリックス結合性の活性型メタロプロテアーゼであり、また軟骨プロテオグリカンであるアグリカンに対する切断活性を有すること等を示してきた。本年度、ADAMTS-1によるアグリカンの切断部位が、アグリカンのコンドロイチン硫酸鎖結合領域中のE(1872)-L(1873)部位であることを決定した。このADAMTS-1によるアグリカンの切断部位は、関節炎患者の関節滑液中や軟骨組織培養中で検出されるアグリカン断片から決定されたアグリカンのin vivo切断部位の一つに対応することから、ADAMTS-1がアグリカンのturnoverや関節炎における軟骨組織破壊に関わる可能性が考えられる。 一方、我々はADAMTS-1遺伝子欠損マウスが、腎杯の拡張などヒト腎盂尿管移行部閉塞症に酷似した表現型を示すことを明らかにしてきたが、本年度さらに、同遺伝子欠損マウスでは副腎髄質細胞の並びが歪で、副腎髄質部に多くの空洞状の構造が生じる異常を見い出した。このことからADAMTS-1は副腎髄質組織の構築にも必須であると考えられる。さらにADAMTS-1遺伝子欠損の雌マウスでは、交尾後13%しか子を生まないなど強い不妊傾向を示し、また着床数が野性型マウスに比べて約50%に減少していた。このことからADAMTS-1が卵巣での卵胞成熟過程や子宮内での発生過程など女性生殖器の機能に重要な役割を果たしているが示唆された。
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