研究概要 |
出芽酵母は、出芽により増殖し、細胞分裂により、大きさおよび性質の異なる2つの細胞(大きい方を母細胞、小さい方を娘細胞と呼ぶ)に分かれる。Ash1タンパク質をコードするmRNAは、細胞分裂時に娘細胞の先端(distal tip)に局在し、これがAsh1タンパク質の娘細胞特異的局在を保証している。Ash1は接合型変換を触媒するHO遺伝子発現の負の制御因子である。ASH1 mRNAの局在にはmRNAの3′非翻訳領域、タイプVミオシンMyo4、アクチンの制御因子Bni1が必要であることが明らかになっている。ASH1 mRNAの娘細胞の先端への局在を、生きた酵母細胞中で観察するため、U1A-GFP融合タンパク質とU1A結合部位をASH1に導入したU1Asite-ASH1遺伝子の発現プラスミドを構築した。これらを用いて、細胞分裂時におけるASH1 mRNAの娘細胞の先端への局在を、生きた酵母細胞中で観察することに成功した。この系を用いて、ASH1 mRNAと共局在するRNA結合タンパク質Yb1032wを見いだした。また、HO遺伝子の母細胞特異的発現が不能になる変異株をスクリーニングすることにより、ASH1 mRNAの局所的翻訳に関与する因子Mkt1を分離した。さらに、RNA結合モチーフをもつMpt5タンパク質が、HO遺伝子のmRNA3′非翻訳領域に結合し、HO遺伝子の発現を抑制することを見いだした。mpt5変異株では野生型株では起きないHO遺伝子の発現が起きる。以上の結果から、HO遺伝子の母細胞特異的発現には、娘細胞特異的に局在する転写因子Ash1よる転写開始での制御に加え、Mpt5によるHO mRNAの転写後の段階での制御も必要であることが明かとなった。今後は、Yb1032w,Mpt5などのRNA結合タンパク質と、ミオシン、アクチン等の細胞骨格系との相互作用を検討する予定である。
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