研究概要 |
入眠期における注意機構の変化を事象関連電位(ERP)により検討した.16名の被験者が実験に参加した.被験者の両耳に装着したイヤホンから標準刺激(1000Hz,出現頻度90%)と逸脱刺激(2000Hz,出現頻度10%)をランダムな順序で,音圧60dB,持続時間50ms,刺激間間隔1450msで呈示した.2種類の刺激を弁別して逸脱刺激に対して行動反応(ボタン押し)を要求する注意条件と,単に聞き流す無視条件を設定した.入眠期脳波段階判定基準(Hori et al.,1994)にもとづいて脳波パタンから5秒ごとに入眠期を5段階に分類し,各段階におけるERPを求めた.覚醒中は,注意条件でのみ逸脱刺激に対して後期陽性成分(P300)が出現した.他方,寝息がはっきり聞き取れる睡眠紡錘波期(脳波段階V)にも後期陽性成分(P400)が出現したが,この成分は注意条件と無視条件のどちらに対しても出現し,P300に比べて後頭部優位の分布を示した.P300とP400は,アルファ波が消えてシータ波が出現する脳波段階IIIで交代した.これらの知見から,(1)脳波段階IIIは覚醒と睡眠の注意機構が入れ替わる端境期であり,(2)睡眠中の注意機構は逸脱した刺激に対して自動的に応答する性質をもつことが示唆された.また,連続指血圧測定装置を用いた予備実験を行い,2つの指に装着した血圧カフの交代間隔や測定姿勢についての最適値を求めた.これらの基礎知見をもとに,次年度は入眠期における自律神経系活動の時系列変化を検討する. 本研究の成果は,第15回ヨーロッパ睡眠学会(2000.9.14,Istanbul,Turkey),第64回日本心理学会大会(2000.11.6,京都),第3回アジア睡眠学会(2000.12.6,Bankok,Thailand),第30回日本臨床神経生理学会大会(2000.12.14,京都)で発表した.
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