研究概要 |
本研究の目的は,睡眠中と覚醒中の注意機構の違いを,事象関連電位と自律神経系活動(血圧・心拍数)を指標として検討し,睡眠中の注意機構モデルを提案することであった.本年度は以下の2実験を実施した. [1]覚醒と睡眠の過渡期における自律神経系の活動を,日中の短時間仮眠中に測定した.実験参加者に15分後に自分で覚醒するように教示すると,目覚める数分前から心拍数が予期的に上昇し,覚醒の準備が行われることが示唆された.この心拍数の上昇は,浅いレベルの脳波段階の持続と関連していた.しかし,血圧には対応する変化が認められなかった. [2]昨年度までに得られた入眠期の知見が,さらにすすんだ睡眠期(睡眠段階2,レム睡眠期)にも適用できるかを検討した.睡眠段階2では,睡眠時に特有の脳電位反応(K複合)が,刺激の呈示頻度が低いときに誘発されやすく高振幅になることが示された.また,レム睡眠期でもP200/P400といった成分の振幅が刺激の呈示頻度に依存して変化することが明らかになった. 以上の知見とこれまでの研究成果を統合し,以下のモデルを提案した.(1)覚醒から睡眠に移行することにより,刺激に対して意図的に注意を向けることが困難になり,低頻度で出現する刺激に対して自動的に応答する神経システムが活動しはじめる.(2)この神経システムは,ノンレム睡眠中にもレム睡眠中にも機能し,見張番として環境のモニタリングを行っている.(3)中枢神経系における覚醒から睡眠への注意機構の交代は,自律神経系の変化と一部連動している.睡眠中の注意機構を,このように比較的単純なモデルで表現したことが本研究の成果であり,第4回世界睡眠学会連合国際会議(ウルグアイ)をはじめとして,日本睡眠学会,日本生理心理学会,日本臨床神経生理学会等で研究発表を行った.
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