研究概要 |
健常若年成人を対象に,非侵襲的な生理指標を用いて,睡眠中の注意機構(見張番機構)を検討した.まず,高覚醒状態から寝息がはっきり聞き取れる睡眠紡錘波期までの入眠期を,脳波パタンから5段階に分け,各段階における音刺激に対する応答性を,事象関連電位(event-related potentials : ERPs)を用いて調べた.その結果,覚醒時に特徴的な脳波であるアルファ波が消え,睡眠時に特徴的な脳波であるシータ波が出現する時期(脳波段階III)を境に,覚醒時に特有のERP成分(ミスマッチ陰性電位,P300)が消失し,睡眠時に特有のERP成分(P200,P400)が出現することが明らかになった.睡眠中のERP成分は,覚醒中のERP成分とは異なり,刺激に対する意図的な注意とは無関係に誘発される外因性の成分であった.同様のERP成分は,睡眠段階2やレム睡眠中にも認められた.次に,このような中枢神経系の変化が,自律神経系の変化とどのように関連しているかを検討した.日中の短時間仮眠において心拍数と血圧を連続測定したところ,目覚める数分前から心拍数が予期的に上昇し,睡眠中に内的な覚醒準備が行われることが示唆された.この心拍数の変化は浅いレベルの脳波段階の持続とと関連していたが,血圧には対応する変化が認められなかった.以上の知見を総合して,次のような睡眠中の注意モデルを提案した. (1)覚醒から睡眠に移行することにより,環境事象に対して意図的に注意を向けることが困難になり,低頻度で出現する刺激に対して自動的に応答する睡眠時に特有の神経機構が活動しはじめる. (2)この神経機構は,ノンレム睡眠中にもレム睡眠中にも機能し,見張番として環境のモニタリングを行っているが,覚醒中と比べて感度が低い. (3)中枢神経系における覚醒から睡眠への神経機構の交代は,自律神経系の変化と一部連動している.
|