不安定核の電磁気モーメントを系統的に測定し、核構造の研究を広い核領域に拡大するために、不安定核に大きなスピン偏極を付与する方法の開発とβ-NMR法による核モーメント測定を行なった。 これを実現する方法として、原子ビームを用いた方法が最も有力と判断され、これを採用することとした。この方法の成否の鍵は、大きなエネルギー幅を持った入射核破砕片ビームを高い停止密度で物質中に停止させることである。いくつかの停止方法を実機によるテスト実験と計算機シミュレーションにより検討した結果、気体中に荷電状態で停止させ電場で収集の後中性化した不安定核原子を気体とともに真空中に噴射する方法をとることとした。これに基づき気体箱・電極系と噴出ノズルを設計・製作し、不安定核の捕集試験、ノズルからの噴出テスト、および原子ビームのスピン分析系の設計、計算機シミュレーションを進めた。捕集試験は、^<17>Nビームを気体箱に入射させ、^<17>Nからのβ線を計数することにより行なった。ノズルからの^<17>Nの噴出はガス噴射の断続によるβ線計数の変化から観測した。その結果、気体箱内の電場を噴出口に向かって指数関数的に強くすることにより停止核の40%以上をノズル部に収集できることと、ノズルからの引き出しが確認された。またLaval型ノズルからのジェット噴射形状のレーザー光による観察および噴射後の原子の速度分布測定の実験に着手し、現在各装置の改良作業中である。これらの結果とスピン分析系の試作機完成を待って、本研究の目指す高偏極・低速不安定核ビームの全体試験を近々行ない、理研の現有加速器で質量数40程度までの不安定核に適用を始める。また、入射核破砕反応自身によって生成されるスピン偏極を用いた核モーメント測定も併せて実施し、^<17>C、^<15>Cのg因子と^<17>Bの四重極モーメントの測定に成功した。さらに、3年後に稼動開始するRIBFでさらに広大な領域の不安定核を対象として核モーメント、β崩壊、β-NMR法を通じた物質科学への応用を展開する予定である。
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