研究概要 |
本研究の目的は、超流動ヘリウムで壁面をコーティングしたセル中で気体アルカリ原子を発生させ、光ポンピングにより偏極し、その原子の永久双極子モーメント(EDM)を測定することを通して時間反転対称性の検証実験に応用することである。平成11年度では、まず、セル壁面の超流動ヘリウムの表面とRbの気体原子との相互作用の研究を行った。その結果、セルの壁面を超流動ヘリウム膜で覆うことにより、非常に微弱な光であっても(懐中電灯の光でも)大量の原子が生成される事実を発見した。またセル内で生成された気体アルカリ原子は10秒以上の長時間、気体の状態で存在することを最近明らかにした。また、このような低温セル中での気体アルカリ原子に対して円偏光のレーザー光を与え光ポンピングを行い、偏極原子の振舞いの研究を行った。その結果、ほぼ完全なスピン偏極が得られること,また、今までどのような手段でも実現されていない10-100秒程度の非常に長いスピン緩和時間を得ることに成功した。更に,偏極された原子を用いて原子の永久双極子モーメントの観測を精密に行うための準備として、スピン偏極を破壊し難くするために非共鳴光のファラデー回転を利用する方法を開発し、ルビジウム原子を用いた実験によりその有効性を確認した。さらにファラデー効果を利用することにより原子スピンを観測しても量子状態を破壊しない新しい方法の提案と理論的な研究を行った。更に,EDM測定をより正確にするために、偏極原子の空間分布を精密に測定できる方法として光を用いた磁気共鳴影像法の提案を行い,セシウム原子やキセノン原子を用いた実験を行い、原子の空間分布が非常に精密に観測できることを確かめることができた。
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