原始太陽系星雲の情報を保持する始原隕石であるコンドライトに関して、「金属-硫化鉄がかつてはコンドリュール形成時に珪酸塩コンドリュールと同様に、溶融した液滴として形成され、コンドライトとして母天体に集積中あるいは後に、延性のある金属は周囲の珪酸塩のよって変形を受けて球状の外形を失い、現在ではコンドリュールなどの隙間に存在している」という作業仮定を設け、主として高分解能X線CT法を用いたコンドライトの3次元構造の研究により、この仮説の検証をめざした。 備品として購入した工業用高分解能X線CT装置の性能評価をおこない、これまでほとんどおこなわれてこなかったCT像のコントラストの定量化について、成果を得た。またこれを用いてKobe隕石の3次元構造の記載をおこない、貴重サンプルのキュレーションについて議論した。さらに、高分解能を得るために、大型放射光施設であるSPring-8において、X線CTシステムの開発をおこなった。 これらのCT装置を用いて、炭素質コンドライト隕石であるY77003(CO3.5)を撮影した。得られた3次元CT像の画像解析をおこない、"金属-硫化物コンドリュール"仮説が正しいことを検証した。さらに、その3次元構造を詳細に検討した結果、金属-硫化鉄コンドリュールの変形は、隕石母天体集積後ではなく、集積時に起こったことが示唆された。従来、コンドライトの研究は、珪酸塩について最も詳しくおこなわれてきた。本研究により、金属-硫化物の成因を珪酸塩コンドリュール形成とともに統一的に捉え、珪酸塩・金属鉄・硫化鉄についての、コンドリュール形成からコンドライトとして集積するまでの一連のプロセスが包括的に説明されるようになった。すなわち、珪酸塩と金属-硫化物を含むコンドライト隕石成因についてのスタンダードモデルが構築されたといえる。
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