研究概要 |
今年度は特に珪酸塩メルトならびに鉱物中の拡散に焦点をしぼって研究を進めた.主たる成果は次の通り. 1.多成分拡散の熱力学モデルの構築 拡散係数の濃度依存性は,拡散現象の定量的解析の大きな障害となっている.本研究では溶液の熱力学モデルに基づき,拡散係数の濃度依存性のモデルを構築した.特に新しく,独創的な点は,Darkenの2次形式溶液モデルを多成分系に拡張して用いた点で,これにより他のモデルよりもはるかに簡単で,かつ現象を良く記述できるモデルの構築が可能となった.現在,ざくろ石中の拡散の実験データの解析をこのモデルによって行っている. 2.肥後変成帯中のざくろ石の累帯構造の研究 肥後変成帯の変成分帯を行い,ざくろ石・黒雲母温度計による変成条件の検討とざくろ石の累帯構造の研究を行った.その結果,角閃岩相中温部までは成長累帯構造が観察されるが,角閃岩相高温部では温度降下過程の再平衡による拡散累帯構造が見られることが分かった.後者について現在地質速度計による解析を進めている. 3.阿蘇火砕流堆積物中の本質レンズの発泡に伴う物質移動 阿蘇火砕流堆積物中の本質レンズの組織と化学組成を検討した.その結果,発泡した本質レンズの化学組成は,未発泡の本質レンズのそれと系統的に異なることが分かった.また本質レンズの形態・組織から発泡は堆積後の温度降下過程で起こり,その際の気相晶出作用に伴う物質移動で組成変化が起こったことが推測された.
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