2波長レーザー振動分光法と量子化学計算による反応活性クラスターの研究

2000 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 11304043
• 研究機関: 岡崎国立共同研究機構
• 研究代表者: 藤井 正明 岡崎国立共同研究機構, 分子科学研究所, 教授 (60181319)
• 研究分担者: 橋本 健朗 東京都立大学, 理学研究科, 助教授 (40202254) ; 酒井 誠 岡崎国立共同研究機構, 分子科学研究所, 助手 (60298172)
• キーワード: クラスター / 赤外スペクトル / 溶媒和 / 多光子イオン化 / IR Dip分光法 / プロトン移動反応 / フェノール / ナフトール

研究概要

反応活性なクラスターを多量に生成できる専用装置を製作してクラスターの振動分光を行い、測定結果を量子化学に基づき解析することで振動分光学に基づくクラスター反応のサイズ依存性の解釈を試みる。研究対象はプロトン移動反応のサイズ依存性が良く研究されているナフトール・(NH_3)_nなど酸・塩基クラスターを中心とする。振動スペクトルの測定には複数台の波長可変レーザーを用いる2波長レーザー振動分光法(イオン化検出赤外分光法,IR Dip分光法など)を用い、基底状態及び電子励起状態の反応活性クラスターの分子振動を測定する。さらに高分解能光電子分光法に相当するパルス電場イオン化分光法(PFI-ZEKE)によりクラスターカチオンの分子振動を明らかにし、中性との比較、反応活性とサイズ依存性のイオン化による変化を明らかにする。
本年度の計画は製作したリフレクトロン型飛行時間型質量分析器付き分子線分光用真空槽を用いて反応活性なクラスター、特に酸・塩基対による溶媒和クラスターの基底状態および励起状態の振動分光を行なう事である。従来から基礎情報を得ている水和クラスター(今年度はクレゾール・水)に加え光励起クラスター内プロトン移動反応の存在が分かっているフェノール/アンモニア、ナフトール/アンモニア、2光子励起による光反応で顕著な溶媒依存性が溶液の実験で明らかにされているカルバゾールに対してIR Dip分光法など2波長レーザー分光法を適用し、比較的小型のクラスター(溶媒分子数5個以下)に対して基底状態、電子励起状態、イオン化状態におけるクラスターの赤外スペクトルの測定に初めて成功した。これらの結果を理論計算と比較し、構造決定を行なっている。特にフェノール/アンモニアクラスターについては、新規に紫外-赤外-紫外3重共鳴分光法を開発して電子励起後の反応生成物の赤外スペクトルの測定に成功し、理論計算との比較から生成物がNH_4(NH_3)_nという中性ラジカルである事を初めて実証し、酸塩基対でも光励起ラジカル開裂が起きることを明瞭に示すことに成功した。

研究成果

• [文献書誌] Kazunari Suzuki 他: "Internal Methyl Group Rotation in o-Cresol Studied by Pulsed Field Ionization-ZEKE Photoelectron Spectroscopy"J.Electron Spectrosc.. 108. 13-20 (2000)
• [文献書誌] Kazunari Suzuki 他: "Pulsed Field Ionization-ZEKE Spectroscopy of cresoles and their aqueous complexes : Internal rotation of methyl group and intermolecular vibrations"Faraday Discuss.. 115. 229-243 (2000)
• [文献書誌] Shun-ichi Ishiuchi 他: "IR dip spectra of photochemical reaction products in a phenol/ammonia cluster-Examination of intracluster hydrogen transfer"Chem.Phys.Lett.. 322. 27-32 (2000)
• [文献書誌] Ken Takazawa 他: "Butterfly Vibration of the Tetrafluorobenzene Cation Studied by Pulsed Field Ionization-ZEKE Photoelectron Spectroscopy"J.Electron Spectrosc.. (in press).
• [文献書誌] Kenro Hashimoto 他: "Theoretical Study of [Na(H_2O)_n] ^- (n=1-4) Clusters : Geometries, Vertical Detachment Energies and IR Spectra"J.Phys.Chem.A. 104. 3299-3307 (2000)
• [文献書誌] Kenro Hashimoto 他: "Theoretical Study of [Na(NH_3)_n]^- (n=1-4)"J.Chem.Phys.. 113. 9540-9548 (2000)
• [文献書誌] Kiyokazu Fuke 他: "Advances in Metal and Semiconductor Clusters,Vol.5, Elsevier"Solvation of Sodium Atom and Aggregates in Ammonia Clusters (in press). 37 (2001)