研究概要 |
本研究は、電荷輸送等の電子物性を担う有機薄膜の価電子および(その直上の)空状態の両電子構造を、前者には紫外光電子分光法(UPS)、後者には逆光電子分光法(IPES)という極めて有力な直接観測法を用いて、同一試料のその場観測により精確に捉える手法の確立を目的としている。両方法を併用した有機薄膜の両電子構造の研究例は極めて少なく、各測定を別々の装置で行っている現状でもその意義は大きい。しかし、広域電子構造を一拳に把握して、目下一番の難点であるIPESのエネルギー分解能が数倍高められれば、特定の試料状態の有機薄膜に対し、エネルギーギャップをはさむ上下の電子構造が同等の精度で論じられるようになる。薄膜中の分子集合形態の制御・評価も可能な試料調製系の配備も考え、有機薄膜の電子物性研究に著しく貢献すべく、以上の条件を満たす測定装置の製作を目指している。 今年度は、UPS,IPES両分光法の技術的問題点を、現有装置の特性もより詳しく調べ、前者では真空紫外光源、電子分光器、後者では低速電子源、分光光学素子、真空紫外光検出系について、それそれ入念に検討した。まず、波長も選べる高強度の光源と高エネルギー分解能で明るい電子分光器の設計を行い、その製作・組立の最終段階にある。電子源は、エネルギー・空間両分解能とビーム強度との両立の限界に挑む基本調査・検討の末、低仕事関数のカソードが放出する電子を集束させ後段に設けた静電型エネルギーフィルターに通して両分解能をより高める設計に至り、その製作を進めている。これに基づく光学素子と光検出系の設計も、その様式や実設計、必須部品の選定・調達などを終えつつある。有機薄膜試料の調製・評価と分光測定のための各超高真空槽は、本年度購入した真空ポンプを含む排気系を活用した設計と部品調達を経て、次年度の完成に向けた進捗状況にある。
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