研究概要 |
1.空間群の異なる2種の等方性液晶相の熱力学的関係 ANBC(n)系列の液晶は2種類の空間群(Ia3dおよびIm3m)を持つことが知られている.それらの液晶相間の関係については未解決の部分が多い.最近合成された2種類の空間群を持つ化合物ANBC(22)および空間群Im3mのみを示すANBC(20)について精密熱容量測定を行った.従来研究してきたANBC(16)とANBC(18)は空間群Ia3dの液晶相のみを示す.これら一連の熱力学データを解析し,分子コアとアルキル鎖の秩序度がそれぞれIa3d>Im3m>SmC相およびSmC相>Im3m>Ia3dの関係を持つことを明らかにした. 2.ANBC(16)とACBC(16)における等方性液晶相の相違の起源 分子コアについた置換基がニトロ基(ANBC)かシアノ基(ACBC)かの違いだけであるにもかかわらずこれらは異なる空間群(Ia3dとIm3m)の等方性液晶を示す.ロシアおよびドイツとの共同研究でACBC(16)を合成してもらい,その熱力学的研究を行った.1で求めた二つの相の熱力学的関係を基に考察を進め,ニトロ基のより大きな電気双極子モーメント間の強い相互作用がANBCでIa3d相を発現させている可能性を指摘した. 3.ライオトロピック等方性液晶の熱力学的研究 以前に測定したC_<12> E_6-水系と類似の相図を持つC_<16>E_8-水系の熱容量を測定した.ヘキサゴナル(H_1)相と等方性(V_1)相では過剰熱容量は濃度に依存しなかった.H_1→V_1およびV_1→ラメラ(L_α)相転移の相転移熱力学量(転移エンタルピーおよび転移エントロピー)も濃度に依存しなかった.これらは,C_<12>E_6-水系でも見られた傾向であり,界面活性剤と水が一定の割合で会合した「錯体」がH_1相とV_1相の高次構造を形成していることを示している.一方,両系の比較からH_1→V_1相転移熱力学量は界面活性剤の大きさに比例するが,V_1→L_α相転移の相転移熱力学量は界面活性剤の大きさにも依存しないことがわかった.後者はリオトロピック液晶における双連結等方性相(V_1)相の分子論的記述への足がかりとなるものである.
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