研究概要 |
1.ACBC(16)の熱容量測定 ANBC,BABHと並んでキュービック相が早くに発見されたACBC(16)について精密な熱容量測定を行った。複雑な相関係を解明し,固相にガラス転移を見出した。等方性液体への相転移直上に現れる幅広い熱異常が転移温度以下まで続いていることを確認し,それがカルボン酸2量体解離モデルと整合していることを指摘した。 2.擬二成分描像の提示 これまでに行ってきた液晶物質についての熱力学的研究の成果を総合することで,多くの実在液晶が分子コアと高度に乱れたアルキル鎖からなる擬二成分系とみなすことができることを結論した。この描像に立つと,相転移エントロピーを解析することにより,分子コアとアルキル鎖の転移エントロピーへの寄与を分離できる。したがって,この描像の確立はネマティック相やスメクティック相など古典的液晶の理解を深める上でも有効である。 3.キュービック相の構造モデル 擬二成分描像とキュービック液晶物質の分子構造に立脚し,キュービック相の構造モデルを提案した。ANBCやBABHなどのキュービック相では左右対称な分子コアがシート状凝集体を形成し,そのシートが三重周期極小曲面(TPMS)をなしていると考えられる。空間群Im3mのキュービック相の構造は理論的には予想されたことがあるが,実例が無い三重連結構造である。このモデルは既存の実験結果と矛盾していない。 4.サーモトロピックおよびライオトロピック系のキュービック相の比較 いずれの系でもキュービック相の熱容量が隣接する他の液晶相より小さいことを見出している。上記の構造モデルによれば,いずれの相でもキュービック相は基本的に同じ凝集構造をとる。したがって,小さな熱容量はTPMSの三次元周期(連結性)によって揺ぎが抑制されていると理解できる。他の熱力学量についても考察を行った。
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