研究概要 |
溶液中のキラル化合物の旋光能、円二色性スペクトルなどの光学活性特性は盛んに測定されて、今や膨大なデータが蓄積されている。それに反して、結晶の光学活性特性はほとんど測定されていない。その理由は、結晶の複屈折は旋光能よりも3桁も大きいために測定が難しかったからである。私は、アキラル(光学不活性)な異種分子を組み合わせてキラル(光学活性)な二分子結晶を創製し、結晶相反応により絶対不斉合成を設計する研究を行う中で、結晶の光学活性特性を明らかにしたいと考えてきた。今回、結晶用精密旋光能測定装置HAUP (High Accuracy Universal Polarimeter)を化学の分野に初めて導入し、結晶の旋光能の測定を行った。その結果、私達の創製したアキラルなトリプタミン-カルボン酸系結晶のヘリックス方向の旋光能を明らかにすることができた。本研究を通じて、柔らかくて異方性の大きい有機結晶の研摩は大変難しく、今後さらに別の試料作製方法も含めて検討する必要があることがわかった。一方、アキラルな二種類の有機分子を組み合わせてキラル二分子結晶を創製する研究についてもかなりの進展があり、擬似種結晶を用いるエナンチオ制御およびキラリティー創出にも成功した。本研究は、将来,キラル固体化学の構築に向けて第一歩を踏み出したところである。このため本研究をさらに発展させたいと考え、最終の15年度を待たずして、基盤研究B(2)、「結晶の円二色性スペクトル」を平成14年度から15年度の2年間の研究として申請したところ、幸いにも採用され、現在、遂行中である。
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