研究概要 |
年度当初から標準試料およびTCNQ錯体の精密合成を行った。原料の精製、溶媒の精製等一切の金属器具を排し、金属的な不純物の混入を可能な限り排除して注意深く合成を行った。幸いに本研究課題が採用されたので、直ちに磁気特性測定装置を発注し、購入、標準試料の測定などテストを行い、11月には稼動できるようにした。 早速Cs_2(TCNQ)_3,[N(CH_3)_4]_2(TCNQ)_3について磁化の磁場依存性を低温で測定したところ、強磁性成分は見られなかったが、奇妙な磁性が観測された。すなわち、酸素が固化する温度付近で有限の磁場が存在すると、磁場の向きによって極低温での磁性が変化する現象が見出された。したがって、合成する段階で金属の混入を防ぐと強磁性成分が減少することが分かった。今回は、酸素の混入を避けるために、合成したCs_2(TCNQ)_3の試料を無酸素(真空及び窒素、アルゴン雰囲気)下で再結晶して、磁気測定することを試みた。その結果、低温から室温付近までほとんど反磁性であることが分かった。この試料に空気を触れさせて測定すると、改めて強い常磁性が観測されるようになる。しかし、強磁性成分は観測されなかった。すなわち、従来室温でも弱い強磁性を示すとされてきたCs_2(TCNQ)_3錯体の磁性は、空気中の酸素による何らかの影響によることが明らかになった。[N(CH_3)_4]_2(TCNQ)_3錯体についても同様の実験を行ったが、Cs_2(TCNQ)_3錯体に空気を触れさせたときと同様の結果が得られ、精製または試料装填処理中に空気に触れた可能性が高く、[N(CH_3)_4]_2(TCNQ)_3錯体については、さらに精密な実験を行う必要がある。
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