研究概要 |
初年度にSQUID磁束計を導入し、標準試料によってその性能をテストした。その後、室温で強磁性を示すことが報告されているいくつかのTCNQ錯体(Cs_2(TCNQ)_3、[(CH_3)_4N]_2(TCNQ)_3など)を取り上げ、その磁性を調べた。確かに普通に合成した錯体では奇妙な磁性が観測されるが、原料の精製を行い、アルゴン中で注意深く合成した試料では、強磁性の痕跡も示さないことが分かった。2年次には磁気シールド付き低磁場ユニットを導入し、測定精度の向上をはかった。一方、有機フェリ磁性体を目指して、ニトロニル ニトロキシドを母体とするいくつかの安定なビラジカル(奇数個および偶数個のメチレン鎖の両端にラジカルをもつもの5種(C_n-BNN)、中央にピリジン環をもつビラジカル、2,2'-ビピリジルの4、4'位など)を合成し、その磁性を調べた。そのうちC_3-BNNやピリジン環のビラジカルなどの結晶で興味ある磁性を示すものが見いだされたが、フェリ磁性体を得るには至っていない。高温に転移点をもつ有機磁性体をつくるには、伝導性の付与がもう一つの鍵になると予想されるので、磁束計の優れた温度制御機構を利用して有機結晶の伝導性や磁気抵抗の温度依存性を測定する準備を進め、良好な結果を得ている。今後、本研究で得られた知識を基にして、初期の目標を目指す研究をさらに進めることが必要であり、その際には同じ装置で伝導度と磁性を測定することが有効になる。その他、本装置は、磁性ナノ粒子(高密度磁気記憶用として注目)、ポリピロールの新規材料の磁性の研究などに活用された。
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