研究概要 |
平成13年度は,研究対象となる昆虫グループについて,ミトコンドリア遺伝子,核遺伝子を用いた系統解析,系統地理学的解析を行った.具体的な研究項目は以下のとおりである. (1)日本産ハンミョウ類の系統生物地理学的解析 海浜性ハンミョウ類の体サイズと大顎サイズの変異を,標本計測によって明らかにし,同時にミトコンドリア遺伝子(CO1,CO3,16S)の塩基配列に基づいて種内の地理的分化を明らかにした. (2)オオオサムシ亜属の系統生物地理学的解析 同所的に生息する5種のオオオサムシ亜属について,ミトコンドリアND5遺伝子と核のPepCK遺伝子の遺伝子系統樹およびハプロタイプ・対立遺伝子ネットワークを作成し,現在生殖隔離が確立している種間での,過去の浸透交雑の様子を明らかにした. (3)オーストラリアオサムシ属の系統解析 オサムシ類の系統進化解析の一環としてオーストラリアオサムシ属10種について,ミトコンドリア遺伝子(16S),核遺伝子(PepCK)の塩基配列に基づく系統解析を行い,分化の様相を明らかにした. (4)世界のマルハナバチ属の系統解析 北米・南米・ユーラシア各地を含む世界各地のマルハナバチ約70種についてアルギニンキナーゼ遺伝子・ウイングレス遺伝子,伸長因子1αの塩基配列を決定し,種間・亜属間の系統関係を明らかにした. (5)食草選択性の異なるアザミテントウ種間の生殖隔離に関する解析 ルイヨウマダラテントウ(ルイヨウボタン食)とヤマトアザミテントウ(アザミ食)を,アザミとルイヨウボタンを植え込んだ網室と,アザミ,ルイヨウボタンに加え両種が実験条件下で好食するヤマホロシを植えた網室を設置し,ヤマトとルイヨウの越冬成虫を放して移動経路,産卵過程,種間交雑を調べた.成虫は各々の食草上だけを移動しアザミとルイヨウボタンしかない状況では両種の共存は稀だったが,ヤマホロシが存在する場合この上で両者は頻繁に共存し,種間交尾も確認された. 東北地方2カ所の同所的集団のミトコンドリアCOI遺伝子の解析を行い,一方の集団では遺伝子交流が絶たれているが,他方の集団では種間に高頻度の遺伝子交流があることが示唆された.
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