近年、電子デバイスの微細化に伴い、薄膜の構造を原子レベルで制御するための技術が必要となってきている。しかし、その基礎となる薄膜の結晶成長機構については依然、不明な点が多く、障害となっている。本研究では、原子の表面拡散など、成長中に表面で起こる原子レベルの素過程に遡って、成長機構を解明することを目的とした。 原子の表面拡散は成長の重要な素過程の一つであるが、拡散を阻害せずに観察することが難しく、これまで電界イオン顕微鏡(FIM)を用いた測定が行われてきた。しかし、FIMでは観察できる系がW等一部の物質に限られてしまう。そこで、本研究ではより多くの物質を観察できる走査型トンネル顕微鏡(STM)を使った観察手法について検討した。STMの基板冷却、加熱機構を立ち上げ、30K〜320K程度の範囲で良好なSi(111)、Si(100)表面の格子像を観察することに成功した。また、STMチャンバー内にSi用の蒸着源を作製し、超高真空内での蒸着を可能にした。原子の拡散観察に関しては基板温度の変化に伴い、基板周辺部が熱膨張、熱収縮するため、基板と探針の相対位置が激しく変化するため、拡散のリアルタイム観察は難しいことが判明した。したがって、FIMで作製した針状の試料、あるいは表面上に何らかの目印を有する試料を使い、常に同じ観察位置にもどるための工夫が必要であると思われる。また、これと平行してPtやIrなどこれまでにFIMで測定された拡散係数を用いて、成長に対する表面拡散等の素過程の影響をレート方程式、シミュレーションにより定量的に評価した。その結果、成長に対する核の解離の影響が決定的に重要であるのに対して、従来から定性的な議論によりその重要性が指摘されていた、核の表面拡散はほとんど成長に寄与しないことが初めて明らかとなった。これは、実測された成長素過程に基づく、初めての定量的な解析結果である。
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