酸化還元電位を統一反応性指標とする新規分子変換について新しい展開を行った。つまり、新しい「電子補助基」として2-ピリジルシリル基を開発するとともに、それを着脱可能な分子内配位子として利用することも試みた。つまり、2-ピリジルシリル基をスルフィドなどのα位に「電子補助基」として導入すると酸化電位の低下が見られる。これは、電子移動で生じたイオウなどのラジカルカチオンに対してピリジル基が分子内配位することによって安定化をしているためと説明できる。また、2-ピリジルシリルの効果はピリジル基のないシリル基に比べて大きく、これは、ラジカルカチオン中心に対するピリジル基の配位のためと推定される。2-ピリジルシリル基の配位能力はピリジル窒素の非結合性軌道とC-Si軌道との相互作用により通常のピリジル基に比べて高くなっていると推定される。そこで、2-ピリジルシリル基を分子内配位子としていくつかの有機金属反応にも用いることも検討した。たとえば、2-ピリジルシリル基を導入することにより、ヒドロシリル化反応、シリルメチル基の脱プロトン化反応、Heck型反応、Stille型反応、グリニヤール反応剤のアルケンへの付加など、いくつかの有機金属反応効率よく進行することを明らかにした。これは、反応の遷移状態や中間体において、2-ピリジルシリル基が金属に配位することによって、反応が促進されているためと考えられ、先に述べた電子移動に対する2-ピリジルシリル基の効果と対応するものであり、興味深い結果である。
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