研究概要 |
平成12年度までにオオオサムシ亜属では側所的に分布するアオオサムシとシズオカオサムシの分布境界付近の個体についてミトコンドリアDNAのND5領域1083bpについて解析を行い,アオオサムシの分布域からシズオカオサムシの分布域へ一方向の浸透が認められた他,近接するミカワオサムシ由来のミトコンドリアを持つと考えられるアオオサムシやそのアオオサムシからミトコンドリアの浸透を受けたと考えられるシズオカオサムシの存在まで示唆される結果が得られた。今年度は空白地域のサンプルの解析を行い,さらにこれらの現象が裏付けられることとなった。さらにアオオサムシとシズオカオサムシの分布境界付近での形態解析から,両方向に形態形質の浸透が認められることも明らかとなった。つまりこのグループにおいて異所的分化後の二次的接触で,交雑を介した遺伝子浸透による網目状進化は分布境界付近で大規模におこっているようである。 ミトコンドリアDNAのCOII領域約320bpで地理的変異の認められなかったスギカミキリは,COI-COIIの約1500bpの増幅に成功し,遺伝的変異の検出に成功した。形態解析を併用することにより,最終氷期にはスギの退避地に分布を縮小していたと考えられるこの種が,大平洋側と日本海側の異なるルートで分布を拡大したと推測された。分布域北部の岩手県の個体群では,両方のルートを経由した個体に由来すると思われるミトコンドリアタイプが共存しており,伝播経路の推定における分子マーカーの有効性が示された。 水生昆虫に関しては関東地方で形態的な地理的変異の認められるウルマーシマトビケラについて,ミトコンドリアDNAのCOII領域約320bpの増幅に成功し,今後このグループの分子系統や分散経路の解明に応用できるメドをたてることができた。
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