研究概要 |
SAGE法を用いて、正常肝、C型慢性肝炎および肝細胞癌組織における遺伝子発現プロフィールを解析し報告した。正常肝組織からは30,982の遺伝子断片を分離し、そのうち8,596はユニークな遺伝子であった。これらの肝臓で発現している遺伝子のうち、最も豊富に発現していたのは血清蛋白をコードする遺伝子であり、全体の21.8%をしめていた。次いで細胞質蛋白(8.6%)、酵素(4.8%)、プロテアーゼ阻害物質(1.7%)であった。また分離した遺伝子のうち13.9%はGenebankに報告されていない未知の遺伝子であった。次いで、C型慢性肝炎肝組織から10,172遺伝子、肝細胞癌組織から13,372遺伝子を分離し、その発現プロフィールを比較した。全24,464のユニーク遺伝子のうち、4.260(17.4%)は正常肝でのみ発現が認められ、5,771(23.6%)遺伝子はC型肝炎組織でのみ、8,871(36.3%)遺伝子は肝癌組織でのみ発現を認めた。インターフェロンガンマ誘導遺伝子、酸化ストレス関連遺伝子の発現はC型肝炎、肝細胞癌に共通して発現を認めた。このように、SAGE法を用いることにより肝臓組織における遺伝子発現をその未知遺伝子を含めて疾患別に詳細に解析することが可能であった。 DNA microarrayを用いてC型およびB型慢性肝炎組織あわせて24例、肝細胞癌組織10例、肝癌細胞株の遺伝子発現プロフィールを解析し、報告した。解析には我々が独自に収集した1080遺伝子を配置したDNA microarrayを用いた。この遺伝子パネルはアポトーシス関連遺伝子、細胞周期関連、癌遺伝子等種々の領域の遺伝子を網羅したものである。DNA microarrayの解析においてはクラスター解析を用いることにより、遺伝子の発現プロフィールのパターン化が可能である。特定の遺伝子発現パターンを示す疾患あるいは遺伝子群の同定が可能となる。今回の解析においてはC型とB型慢性肝炎組織は対照的な遺伝子発現パターンを有しており、特にアポトーシスおよび細胞周期関連遺伝子群、細胞接着関連遺伝子群等で顕著であった。このことは同じウイルス肝炎であっても遺伝子発現パターンが大きく異なり、肝発癌のメカニズムも異なっている可能性が示唆された。また、AFP陽性肝癌細胞株は陰性肝癌細胞株と遺伝子発現パターンが異なることを明らかにした。肝癌組織に於ける解析では19遺伝子が非癌部肝組織と有意に異なる変動を示したこと、また肝癌組織の分化度と相関する遺伝子22遺伝子を同定した。
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