GrTxは、Xenopus oocytesから発見された、アミノ酸残基36残基からなるチャネル阻害剤である。チャネル阻害剤は、ポアー阻害剤とゲーティング変調剤に分けられる。ポアー阻害剤は、チャネル孔に結合しイオンの透過を妨げると考えられ、ゲーティング変調剤は、チャネルの開閉を制御するゲーティング領域に作用し、結果としてイオンの透過を妨げる。GrTxは、その機能から後者に分類される。 本年度は、GrTxの溶液における立体構造を核磁気共鳴(NMR)法により決定した。まず、GrTxを固相重合法により化学合成した。合成したGrTxは電気生理的にその活性が充分であることを確認した後、NMR測定に供した。各種2次元NMR測定を行い、スペクトル解析し、NOEから構造計算のための距離制限を集めた。得られた、距離制限に基づき分子動力学計算を行い、GrTxの立体構造を求めた。 GrTxは、2個のβ鎖と1個のβバルジからなる所謂、'inhibitor cystine knot'を持つことが判明した。そして、その表面構造は、先の研究より明らかになった、ゲーティング変調剤HaTxの表面に存在したゲーティング変調剤の特徴と一致した。したがって、GrTxのチャネルの相互作用には、HaTxと同じ荷電残基に囲まれた疎水パッチが重要であることが明らかになった。 さらに、表面の形、荷電残基の分布を調べたところ、HaTxと似ているものの違いが見られた。HaTxとGrTxはそれぞれ、KチャネルおよびCaチャネルに強く結合する。しかし、親和性こそ弱いものの、HaTxはCaチャネルに、GrTxはKチャネルに結合する。したがって、この反応交差性は、表面状態の微妙な違いに由来すると考えた。
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