リガンドータンパク質複合型抗腫瘍性天然物C-1027クロモフォアは、ホロタンパク中でも長時間のNMR測定中にかなり分解することが分かった。そこでまずモデル系として、アポタンパクと安定な芳香環化合物との複合体の^1HNMR測定を行い、シグナルの完全帰属と距離情報等を求めた。中間体p-ベンザインビラジカル三重項の観測を目的として、天然物C-1027やケダルシジンについてEPRスペクトルを測定した。二次元FT-NMRニューテーション分光法によって、観測したスペクトル中には三重項の吸収が含まれることが証明された。しかし、ゼロ磁場分裂定数から2つのラジカル間距離は8Åであり、p-ベンザインビラジカルとしては大きすぎることが明らかになった。即ち、観測された三重項シグナルは、アポタンパク質のGly96のアルファ水素が引き抜かれたペプチド鎖ラジカルとフェニルラジカル間のラジカル対であることが分かり、NMRによる複合体三次元構造解析の結果もこれを支持した。従って、p-ベンザインビラジカル三重項の観測には成功しなかったが、エンジインとp-ベンザイン間の平衡の存在と、クロモフォアがアポタンパク質中で分解(失活)する分子機構が明らかになった。
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