研究概要 |
DNAは非常に安定であり,天然酵素を用いることなしでは,容易には切断されない(無触媒下でのDNAの半減期は2億年).これに対して我々は,Ce(IV)が有効であることを報告している(半減期4時間).しかし,生理条件下では,Ce(IV)が金属水酸化物ゲルを生成するため,その応用範囲が限られていた.Ce(IV)を人工制限酵素の活性部位として利用するためには,錯体化が必要不可欠である. 昨年度からの一連の研究により,Ce(IV)-EDTA触媒系がDNA切断に有効であることを見出している.本年度は,切断活性についてのより詳細な検討を行った.その結果,Ce(IV)-EDTAの活性は,基質DNAの長さに大きく依存することが明らかになった.すなわち,チミジリル(3'-5')チミジンなどの短いDNAに対しては全く活性を示さないが,DNAオリゴマーやプラスミドDNAに対しては,Ce(IV)水酸化物ゲルと同等の活性を示した.EDTAはCe(IV)イオンと強く錯生成することが報告されていることから,Ce(IV)-EDTAは,人工酵素の触媒部位の有力な候補であることが明らかとなった. また,生体系への応用のためには,μMオーダー以下の触媒によりDNAが切断されることが必須である.しかし,μMオーダーのCe(IV)-EDTAのみを用いた場合には,触媒濃度が非常に低いために,ほとんどDNAは切断されなかった.しかし,種々の条件でこの反応を検討した結果,ここにオリゴアミン類を添加することにより,活性が飛躍的に向上することを見出した。例えば,1μMのCe(IV)-EDTAに,わずか数10μMのスペルミンを添加することにより,効率的なDNA切断が実現した.このCe(IV)-EDTA_+オリゴアミン系触媒は,「DNAの特定部位をオリゴアミン類によって活性化することでDNAを配列特異的に切断する」という新規なDNA加水分解触媒系として広範な応用が期待される.
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