研究概要 |
人工制限酵素の実用化のためには,切断能と選択性の一層の向上が急務であるので,本申請研究においては,ここに焦点を絞った.その結果,以下に示すように,(1)大きなDNA切断活性を持つCe(IV)錯体の開発,ならびに,(2)DNAの特定部位の活性化に基づく切断効率の向上の2点で,特に大きな成果を上げることができた. (1)大きなDNA切断活性を持つCe(IV)錯体の開発 Ce(IV)とEDTAとの1:1錯体が,生理条件でDNAを極めて迅速に加水分解することを発見した.この錯体は,ニュー・バイオテクノロジーを創生する第2世代の人工制限酵素の触媒部位として十分な触媒能と化学的安定性をもっている. さらに,Ce(IV)・EDTA錯体のDNA切断触媒能が,ジエチレントリアミン,スペルミンなどとの協同触媒作用により飛躍的に(数十倍以上)増進できることを見出した.EDTA錯体/オリゴアミン協同触媒系は非常に高活性であり,わずかに数μMの濃度でもDNAを効率的に切断する.セリウムイオンによるDNA切断ではmMオーダーの触媒濃度が必要であり実用化の障害となっていたが,この問題は完全に解決された. (2)DNAの特定部位の活性化に基づく切断効率の向上 DNAを効率的に切断するもう一つの方法は,基質を構造的にひずませて活性化することである.種々検討した結果,インターカレーターを結合した修飾DNAが,基質核酸の活性化に非常に有効であることを見出した.すなわち,基質核酸がこの修飾DNAと2重らせんを形成すると,インターカレーターの近傍が選択的に活性化される.この現象を利用して,核酸の位置選択的な加水分解に成功した.この知見は,人工制限酵素の設計に際して,「高活性触媒」と「基質の活性化」の両者を併用することにより,切断効率と選択性との飛躍的な向上が可能であることを強く示唆している.
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