研究概要 |
本研究では、特定研究で進行中である筋小胞体カルシウムATPaseのカルシウム存在下における結晶構造の解析と並行して他の生理的状態の構造を明らかにし、イオン能動輸送機構の構造的解明を目指している。そのために、まずATP結合部位の検討を行い、カルシウム存在下で得られた構造モデルを電子顕微鏡法によって得られたカルシウム非存在下のマップにフィットすることを試みた。ATP結合部位を決定するために、蛍光アナログであり、親和性が最も高いTNP-AMPを用い、可視化を試みた。蛍光強度の増大が観察できたので、結合が期待されたが、実際、差フーリエ法でその位置を決定することが出来た。結合に直接関与している残基はPhe487であり、部位特異的変異の結果とよく一致するものであった。この結果、リン酸化部位とアデノシン結合部位は別のドメインにあり、25Å以上離れていることから、能動輸送中には大きなドメイン運動が起こることが判明した。この結果はさらに原子モデルをカルシウム非存在下のマップにフィットすることで確認された。このマップはデカバナジン酸で誘導されるチューブ状結晶から電子顕微鏡によって得られたものであり、低分解能(8Å)ではあるが明らかに異なった生理的状態に対応している。フィッティングは非常にうまく行き、細胞質ドメインのみならず,分子全体にわたる大規模な構造変化を起こしていることが明らかになった。この状態の構造はもっと追求する価値が十分にある。
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