本研究ではイオン能動輸送のメカニズムを高分解能結晶構造解析によって明らかにすることを目標とし、特に筋小胞体カルシウムATPaseの構造解析を行ってきた。このイオンポンプに関しては、既にカルシウム結合時(E1Ca)の構造を2.6Å分解能で決定することに成功した。従って、カルシウム非存在下(E2)、カルシウム非存在下のリン酸化状態(E2P)での構造決定を次の目標とした。研究は極めて順調に進行し、E2に関しては強力なる阻害剤であるthapsigargin存在下で2種の結晶を作成することに成功した。そのうちP4_1対称性を持つ結晶は一軸が600Å近くあり、データ収集は困難であったが、SPring-8BL44XU(阪大・蛋白研ビームライン)で3.1Åまでのデータ収集に成功し、分子置換法によって構造を決定できた。ElCa^<2+>の構造とは大きく違っており、Ca^<2+>の輸送に関する重要な知見が得られた。また、E2Pに関してはMg/F複合体の結晶化に成功し3.2Å分解能での一応の構造モデルは得られた。しかるに、最近になって結晶の改良によって2.9Å分解能でのデータが得られた。
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