生体に広く存在する細胞内情報変換のモチーフは「受容体→G蛋白質→酵素」である。これに関与する受容体(G蛋白質共役型受容体、GPCR)は7本膜貫通α-ヘリックス構造を持ち、現在までに2000種類以上が発見されている。GPCRは分子進化の過程で様々に多様化し、生物が高度な情報処理システムとして働くのをささえている。本研究では、視覚の光受容蛋白質をモデルGPCRとして、GPCRにおける共通の分子設計とその多様化の道筋を理解しようと試みた。 その結果、ロドプシンスーパーファミリー(ファミリー1)に属するGPCRではG蛋白質を活性化するための基本的な分子設計は同じであることが推定された。一方、ファミリーが異なると活性状態になるために働くヘリックスが異なり、分子設計の違いが考えられた。また、ロドプシンの機能発現機構に関して、光受容からG蛋白質活性化に至る構造変化過程を種々の分光学的・分子生物学的手法を用いて検討した。その結果、異性化反応に伴う発色団の動きがヘリックスの相対的位置を変化させて活性化状態に変化させるメカニズムや、構造変化の起こりやすさを制御するアミノ酸残基の同定に成功し、原子のレベルからロドプシンの活性化機構を明らかにする道筋をつけることができた。さらに、ロドプシンそのものの3次元立体構造を精密化し、分子内に7個の水分子を同定した。また、ロドプシンファミリーの蛋白質が可視光を受容するために必須な対イオンがグループ間で多様化していることを発見した。
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