研究概要 |
本研究目的は、神経シナプス間シグナル伝達に関わる可能性のあるチロシンキナーゼ、チロシンフォスファターゼ、そしてその標的分子について分子生物学を中心とした機能解析を進めることである。本年度は以下の研究を進めた。 1.神経細胞で発現する未解析のチロシンキナーゼ遺伝子を、既存のデータベースをもとにin silicoスクリーニングを行って同定し、Bykと命名した。Bykは1,476アミノ酸残基からなり、2つの膜貫通ドメインを持つ受容体型チロシンキナーゼである可能性が指摘されている。系統樹の上ではチロシンキナーゼに分類されるキナーゼの中で最もセリンキナーゼに近い。Bykはノーザンハイブリダイザーションにより脳に限局して発現する。 2.脳で発現の高いチロシンキナーゼLyn、Fynの下流シグナル伝達系解析のために、脳由来発現ライブラリーのフィルターキナーゼ法を用いたスクリーニングによりこれらの基質蛋白質を探索した。10数種類の標的候補蛋白質に対するcDNAを得た。得られたものの内、oligodendrocytesで発現するNOGO蛋白質とBANKについて解析を進めた。BANKはB細胞で高く発現し、抗原受容体からIP3受容体をつなぐ役割をしていることが示唆された。NOGOは神経突起の伸張を阻害する分子として知られており、チロシンリン酸化によって機能が制御されている可能性を探索している。 3.NMDA受容体と会合するチロシンフォスファターゼPTPMEGを欠損するマウスを作成するために、PTPMEGゲノム遺伝子を得、ターゲティングベクターを構築した。 4.受容体型チロシンキナーゼALKに対するagonisticモノクローナル抗体を作成した。それを用いて、ALKの活性化が神経突起の伸張を促すことを示唆する知見を得た。
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