研究概要 |
本年度は血管内皮の遺伝子応答の分子機構を検索するために、流れずり応力応答配列を介した転写制御とそれにつながる情報伝達経路を検討した。流れずり応力に反応する内皮遺伝子のプロモータに存在する3つの流れずり応力応答配列(TRE,CRE,kappaB)のタンデムリピートを挿入したルシフェラーゼ・リポーター遺伝子を培養ウシ大動脈内皮細胞に導入し、平行平板型流れ負荷装置で流れずり応力を作用させ転写活性の変化を測定した。 その結果、流れずり応力負荷数時間でTRE,CRE,kappaBを介する転写の促進が始まり、12時間で最大となった。同時にゲルシフトアッセイでずり応力負荷1時間で各応答配列に結合する転写因子の活性化が認められた。ついで、流れずり応力による転写誘導に関わる情報伝達因子に関して各種阻害薬による解析を加えたところ、チロシンキナーゼ阻害薬(Herbimycin A)が共通して阻害効果を示した。 また、接着斑に存在するFAKが流れずり応力負荷1分でチロシン燐酸化されることが示された。FAKが流れずり応力によるTREを介した転写制御に関与するかどうかをFAKのドミナントネガティブフォームであるFRNKの発現ベクターを遺伝子導入して調べた。その結果、FRNKは流れずり応力によるTREを介した転写誘導を著明に抑制した。以上から流れずり応力応答性転写因子群(AP-1,CREB-1,及びCREM-1,NF-kappaB)を介した遺伝子発現の情報伝達にはチロシンキナーゼが共通して関与し、これにFAKが重要な役割を果たしている可能性が示された。
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