研究概要 |
顎を持たない無顎類の一種、カワヤツメ(Lampetra japonica)に加え、多くの顎口類胚を用い、頭部間葉の発生的挙動を形態、遺伝子発現の両者から観察した。まずカワヤツメにおける頭部神経堤細胞と頭部中胚葉の形態学的発生を記載し、それが顎口類とほとんどかわらないことを報告、ヤツメウナギ類が必ずしもナメクジウオと顎口類とを繋ぐ中間動物ではないことを示した(Horigome et al.,1999;Kuratani et al.,1999)。つまり、脊椎動物は極めてコンパクトな動物群であり、ヤツメウナギは共通の胚形態から若干逸脱した動物でしかない。これは遺伝子の発現パターンについても同様である。これまで記載されてきたヤツメウナギにおけるホメオボックス遺伝子の発現に加え、顎骨弓では、顎口類の下顎の発生に必要とされるOtx遺伝子が、やはり同じ機序、形態パターンで発現することが分かった。では顎はどのようにして進化したのか。顎口類の顎は上下顎からなるが、ヤツメウナギの口は上下の唇と、ポンプの役割をする縁膜からなる。このような形態の違いは、上に述べた共通パターン(ファイロタイプ)の成立以降に明瞭にあらわれるに違いない。これを明らかにする目的で、ファイロタイプが成立する咽頭胚以降における各種脊椎動物の顎骨弓の形態分化を検索中であり、中胚葉と末梢神経パターンの形態を手がかりに、トラザメとチョウザメ(ベステル)において頭部の発生過程を記載した(両論文投稿中)。また、カワヤツメにおいては頬突起という構造から、上下の唇両者があらわれること、さらに、これまで顎骨弓と相同であると思われていた頬突起の一部が、実は顎骨弓より前方に発生する顎前領域をふくみ、上唇は事実上、顎骨弓ではなく、顎前の要素であることが判明した(投稿中)。このような後期発生の相違をもたらす要因として、間葉と上皮の相互作用の違いが考えられる。とりわけヤツメウナギでは鼻プラコードと下垂体が単一の原基として発生するが、顎口類ではそれが極めて早期に分離し、神経堤細胞に対し、ことなった分布と成長の方向をもたらすらしいと想像された。
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