脊椎動物咀嚼器形態の発生メカニズムと進化

2000 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 11309010
• 研究機関: 岡山大学
• 研究代表者: 倉谷 滋 岡山大学, 理学部, 教授 (00178089)
• キーワード: 神経堤細胞 / 中胚葉 / 顎 / 進化発生学 / 転写調節因子 / 相同遺伝子 / 咽頭弓 / 比較発生学

研究概要

顎口類のうち最も原型的な形態を保持すると考えられる板鰓類胚、ならびに硬骨魚のうち根幹に属するチョウザメ胚の頭部における、咽頭弓、中胚葉、脳神経の形態的発生パターンを観察、顎口類の基本的形態プランの理解を目指した。すでに行ったヤツメウナギ胚の観察結果と比較した結果、古典的には頭部分節の名残と考えられた頭腔が二次的な適応的構造である可能性、さらに板鰓類胚が必ずしも一般的な脊椎動物の頭部形態プランを代表するものではないことが明らかとなった。カワヤツメの発生機構については引き続き、分子発生学的、実験発生学的観察を行った。まず、京都大学との共同研究において、カワヤツメにおけるPax9相同遺伝子を単離、発現を観察した。この遺伝子は顎口類では、咽頭嚢、顎骨弓間葉、肢芽、硬節に発現し、とりわけ咽頭嚢派生物の発生に重要な機能を果たす。祖先的後口動物のギボシムシや、ホヤ、ナメクジウオにおいても、咽頭内胚葉に発現し、進化上高い保守性を持って機能することが伺える。カワヤツメLjPax9(アミノ酸解析ではヤツメウナギ類においてすでにPax1、Pax9は重複しているらしい)も咽頭内胚葉や顎骨弓間葉に発現が見られたが、硬節での発現は見つからなかった。この遺伝子の進化は「新機能獲得(neo-functionalization)」を方針としたものであるらしく、単なる遺伝子重複だけがゲノムやボディプランの進化の背景とはなっていないことの好例である。さらに実験的手法として、カワヤツメ胚の移動前の神経堤に蛍光色素DiIを微量注入し、前回以上に緻密な神経堤細胞のマッピングを行った。結果、ヤツメウナギ類の頭部間葉の組成は、顎口類のものと抜本的に異なり、アンモシーテス幼生の上唇と下唇が似ていようとも、顎口類の上下顎とは異なったものであることが示唆された。これは、形態的観察から得た結論と同じである。以上の成果をまとめ、顎の進化に関するレビューを執筆、現在、印刷中である。

研究成果

• [文献書誌] Kuratani,S. ほか: "Embryology of the lamprey and evolution of the vertebrate jaw : insights from molecular and developmental perspectives."Phil.Trans.Roy.Soc.. (印刷中). (2001)
• [文献書誌] Kuratani,S. ほか: "Morphological development of the cranial nerves and mesodermal head cavities in sturgeon embryos from early pharyngula to mid-larval stages."Zool.Sci.. 17. 911-933 (2000)
• [文献書誌] Kuratani, S. ほか: "Development of peripheral nerves in a cat shark, Scyliorhinus torazame, with special reference to rhombomeres, cephalic mesoderm, and distribution patterns of crest cells."Zool.Sci.. 17. 893-909 (2000)
• [文献書誌] Ogasawara,M. ほか: "Pax1/Pax9-related genes in an agnathan vertebrate, Lampetra japonica : expression pattern of LjPax9 implies sequential evolutionary events towards the gnathostome body plan."Dev.Biol.. 223. 399-410 (2000)
• [文献書誌] 倉谷滋: "発生生物学物語8・比較発生学を追い続けて"細胞工学. 19. 444-452 (2000)