脊椎動物咀嚼器形態の発生メカニズムと進化

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 11309010
• 研究機関: 特殊法人理化学研究所
• 研究代表者: 倉谷 滋 理化学研究所, 形態進化研究チーム, チームリーダー (00178089)
• キーワード: 神経堤細胞 / 無顎類 / 顎骨弓 / 三叉神経 / 上皮間葉間相互作用 / ホメオボックス遺伝子 / 形態進化 / 成長因子

研究概要

ヤツメウナギ胚における口器発生を検索するため、顎口類の顎の遠近軸パターニングに機能することが知られている遺伝子のヤツメウナギ相同物を単離、その発現を調べたところヤツメウナギの上唇と下唇があたかも、上顎と下顎に相同であるかのようなパターンを示した。これは以前の研究における結論と異なる。局所的ホメオボックス遺伝子発現をもたらしている上皮間葉間相互作用の位置が進化的にシフトした可能性を考え、これを証明するために成長因子を含むビーズを局所的に移植、顎口類のパターンをヤツメウナギのパターンに一致させることに成功した。このことから、顎の進化には相同性を破壊するタイプの相互作用の位置的シフトが関わっているらしいことが推測された。この結果はサイエンス誌に掲載。また、顎の進化と関係の深い三叉神径の発生をヤツメウナギ胚について検索。デキストランを注入することにより、三叉神径の知覚、運動支配に関わる神経細胞の局在を調べた。その結果、頭部顔面の知覚支配に関しては三叉神径節内の細胞の局在はヤツメウナギと顎口類において良く類似していたが、運動神径についてはやはり、上唇を上顎と見立てるとその位置が顎口類にのけるパターンと逆になっていることが分かった。さらに、筋肉アクチン遺伝子の発現によって観察したところ、上唇の筋は顎骨弓内の筋素材の後ろのものが二次的に前へ移動することで成立することが分かったが、これは運動ニューロンの1次的配置ときわめて整合的である。つまり、三叉神経、顎骨弓筋の進化には、抜本的な間葉系の再編成が関わっているらしいことが明らかとなった。

研究成果

• [文献書誌] Kuratani, S., Kuraku, S., Murakami, Y.: "Lamprey as an Evo-Devo model : lessons from comparative embryology and molecular phylogenetics"Genesis. 34. 175-183 (2002)
• [文献書誌] Shigetani, Y, et al.: "Heterotopic shift of epithelial-mesenchymal interactions for vertebrate jaw evolution"Science. 296. 1319-1321 (2002)
• [文献書誌] Murakami, Y, et al.: "Compartments in the lamprey embryonic brain as revealed by regulatory gene expression and the distribution of reticulospinal neurons"Brain Res. Bull.. 57. 271-275 (2002)
• [文献書誌] 村上安則, 倉谷 滋: "脊椎運動の脳形成プランの起源を探る"細胞工学. 21. 1377-1384 (2002)
• [文献書誌] Kusakabe, R., Tochinai, S., Kuratani, S.: "Expression of foreign genes in lamprey embryos : an approach to study evolutionary changes in gene regulation"Mol. Dev. Evol.. (印刷中).
• [文献書誌] Kuratani, S.: "Evolution of the vertebrate jaw-homology and developmental constraints"Paleontol. Res.. (印刷中).
• [文献書誌] Kuratani, S.: "Evolutionary developmental biology and vertebrate head segmentation : a perspective from developmental constraint"Theory in Biosciences. (印刷中).