研究概要 |
ニワトリや種種の顎口類における頭部形態発生の比較観察、ならびに主として無顎類に属するヤツメウナギを実験材料として用い、顎口類の発生パターンと比較することによって、発生プログラムの変化として脊椎動物咀嚼器系の形態進化を検索、検討した。顎口類はどの種においても画一的な胚の組織学的構築を示し、顎骨弓の変形として顎を作り出している。また、咽頭胚期までのヤツメウナギ胚を形態学的に観察したところ、中胚葉、内胚葉に加え、神経堤細胞の分布に関しても、顎口類と同じ形態パターンを示すことが分かった。これには、咽頭嚢に発現するPax9,中脳より前に発現するOtx,前脳と咽頭弓間葉に発現するDlxなど、制御遺伝子の空間的発現パターンも加えることができる。ヤツメウナギには舌は存在しないが、これに似た筋は存在し、顎口類と同様、体節由来の筋組織が、脊髄神経の変形した舌下神経によって支配されていた。このことから脊椎動物の咽頭胚はファイロタイプと呼ぶにふさわしく、きわめて強い発生拘束のもとにある。ファイロタイプ後に生ずるパターンを比較したところ、顎口類の上下顎、ヤツメウナギ胚上下唇が、形態的には相同ではないことが分かった。詳細な形態学的観察より、上唇を作る間葉が顎骨弓ではなく、顎前領域に由来することが判明、形態的相同性が崩れた。にもかかわらず、上唇、下唇の遠近軸をパターンするとおぼしき遺伝子は、顎口類の顎骨弓パターニング遺伝子群と相同的である。つまり、形態的には相同ではない構造に、相同的な遺伝子が発現する。これは、無顎類から顎口類の段階への移行にあたって、顎前領域から顎骨弓へ至る間葉の再編成に加え、局所的ホメオボックス遺伝子の発現をもたらすような、外胚葉内の成長因子の分布のシフトを含むヘテロトピー的変化があったことを予想させ、成長因子の分布を変化させる実験結果はこれと整合的であった。
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