研究概要 |
1.南半球産苔類の化学系統分類 平成12年度にニュージーランドで採集した苔類のうち、日本にも生息するケビラゴケ属苔類数種について化学系統分類学的な研究を試みた。R.marginata, R.ratkowskiana, R.grandis, R.dentifolia, R.plicata, R.uvifera, R.sainsburiana, R.levieri, R.physoloba, R.tasmanica, R.buccinifera, R.silvosaの12種のニュージーランド産Radulaについて研究した。これらの種は化学成分の特徴から大きく4グループ(Chemo-taxa)に大別される事が判明した。ケビラゴケ(Radula)属は分類学的にも一属に全ての種を分類する事には意義を唱える学者も少なくなかったことから、これらのchemo-taxaは形態学的に亜属として整理されるべき種であると考えられる。さらにR.marginataのエーテル抽出物からは、大麻の幻覚作用を持つcannabinoid関連化合物が単離された。化学構造は既存の600MHzNMRなどを駆使することにより確定した。苔類から得られた新しい薬理活性物質として、または創薬リード化合物として極めて興味深い化合物である。 2.苔類とシダの化学成分類似性に関する研究 平成12年度の研究結果では苔類に固有の化学成分であるPerrottetin Hがコウヤコケシノブ(シダ)に含まれることが明らかになったため、40種の日本産シダ植物についてもLC-MSを用いてPerrottetin Hの検索を行った。その結果、採集地の異なるコケシノブ科のコウヤコケシノブ以外に、ホウライシダ科のイワガネゼンマイ、トクサ科のスギナ、シシガシラ科のオサシダ、ウラボシ科のノキシノブ、オシダ科のオオカナワラビから検出された。 シダ植物に含まれる2,4-dimethoxy-6-hydroxyacetophenoneはニュージーランド産苔類(現在までに2種のFrullania,2種のPlagiochila, NZ-134と154)に含まれることがGC-MS分析により明らかになった。アセトフェノン類似化合物は日本産の苔類には未だ検出されていない。高等植物には含まれず、苔類とシダ植物にのみ含まれるこの様な化合物が徐々に明らかに成りつつある。Perrottetin H,1-(2,4,6-trimethoxy-phenyl)-but-2-en-1-one,および2,4-dimethoxy-6-hydroxy-acetophenoneは化学化石と称し、苔類の進化、およびシダとの分化を議論するうえで重要な化合物になる可能性がある。
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