本研究は、粒界量子構造という新規のパラメータを制御することによって耐熱セラミックスの開発を目指している。今年度は本研究の締めくくりとして、高純度アルミナおよび微量陽イオン添加アルミナの高温クリープ試験を行い、量子構造計算に基づく耐熱性向上のための最適ドーパントを見出す実験を行った。ドーパントの選択は、分子軌道計算によって予想されたものと、比較のために古典的パラメータである原子価及びイオン半径を指標として行った。その結果、アルミニウムイオンと同じ形式電価である3価の陽イオンが最もクリープ特性向上の効果が大きかったが、その他の価数を有する陽イオンについては、クリープ特性を向上させるものと、逆に劣化させるものとに分かれた。現有の高分解能電子顕微鏡やEELSスペクトルの分析から、こうしたドーパント効果は通常の原子サイズ効果や価数では整理できず、粒界における電子状態の変化に起因することを明らかにした。特に、空孔形成に伴う原子間結合力の変化は顕著であり、ドーパント効果の大きな要因となっている。実際、第一原理計算による分子軌道法計算の結果もこれを支持しており、換言すれば、添加原始の原子軌道エネルギーと、空孔形成による結合エネルギーの変化とのバランスが高温機械的性質を決定する重要なパラメータとなっていると言える。こうした知見は、従来経験的に添加物・添加量を選択しセラミックスを合成する手法に対し、より理論的な材料設計指針をもたらすものであると期待される。今年度得られた知見に関しては日仏セミナーおよびRex&GG国際会議等で研究代表者が口頭発表すると共に、学術論文として国際学会誌に発表された。
|