研究概要 |
多くの細胞外シグナルが、遺伝子発現の調節を介して細胞形質の変化を促す。我々は、レトロウイルス・プロウイルスが宿主染色体のランダムな位置に組み込まれるという性質を利用し、細胞外シグナルの標的となる遺伝子の同定法を開発し、その応用を試みた。このベクター(pROSA-nGBT)は、Sorianoらが開発したレトロウイルス・ベクター、に我々が開発した両方向選択マーカーを挿入したものである(秋山ら、Mol. Cell. Biol.,2000)。最初に行ったTGF-βに応答する遺伝子のスクリーニングでは、9種の新規遺伝子が検出され、そのうちのひとつTMXは、小胞体に局在する膜結合型の新規チオレドキシン・ファミリー・タンパク質をコードすることが見出された。TMXは強制発現させた場合にbrefeldin Aによる細胞アポトーシスを抑制することから、小胞体ストレスを緩和する役割を担う分子である可能性が示唆された(松尾ら、J. Biol. Chem,2001)。一方、DNA切断活性をもつ薬剤ブレオマイシンに応答する遺伝子として、アポトーシス抑制に関わる既知分子c-IAP2の遺伝子が検出された。c-IAP2プロモーター中のブレオマイシンおよび電離放射線への応答性に責任を持つ配列を調べた結果、NF-kB結合配列であることが見出された(上田ら、FEBS Lett.,2001)。このプロモーターは比較的低線量の放射線に応答することから、ガンの放射線遺伝子治療への応用が期待される。本法には比較的低レベルに発現する遺伝子も同定可能という特徴があり、したがって、絶対的な発現量が低い、あるいは転写単位としては未同定などの理由で他の方法では検出できないが、様々な刺激等に応じて興味深い発現パターンを示すような遺伝子の同定手段として、依然として価値の高いものと言えよう。
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