心不全や心肥大に伴って心筋細胞だけでなく心筋間質細胞の形質も大きく変換し、細胞外マトリックスや増殖因子が分泌され、心筋線維化が進行する。血管においても、内皮細胞、中膜平滑筋細胞、さらに外膜線維芽細胞等の間葉系細胞の活性化は、平滑筋細胞の増殖、凝固カスケードの活性化等により動脈硬化や血管再狭窄を促進する。これらの心血管間質細胞の活性化を抑制する薬剤が開発されれば、心不全や血管障害の新しい治療法となりうる。しかしながら間質細胞を活性化する遺伝子転写機構は、現在ほとんど解明されていない。心血管系細胞の活性化は加齢によっても促進される。老化を規定する遺伝子は長い間不明であったが、我々は老化抑制遺伝子klothoを発見した。klotho因子は血管内皮細胞を保護し、酸化ストレスやスーパーオキシドから心血管系を防御すると推測されている本研究では上記に対して、具体的に次の課題を設定した。1)平滑筋の形質変換を転写因子レベルで抑制する薬剤の開発、2)心筋間質細胞で活性化される転写因子の単離、3)ラット乳汁中への老化抑制蛋白klothoの産生系の開発。本年度の成果は次の通りである。1)平滑筋の形質変換を抑制する薬剤のスクリーニング:組織因子遺伝子のプロモータをルシフェラーゼに連結したレポーター系を安定して発現する細胞株を樹立し、この細胞にBTEB2の発現ベクターを同時に発現させた際のルシフェラーゼ活性を指標として、BTEB2による活性化作用抑制薬のスクリーニング系を確立した。現在、転写活性に影響するコンパウンドをスクリーニング中である。また、BTEB2のアンチセンスを発現するアデノウイルスを構築し、平滑筋活性化の抑制作用についてin vitroならびにin vivoで現在検討中である。2)心筋間質細胞で活性化される転写因子の単離:心筋間質細胞よりmRNAを単離し、高効率に全長cDNAを含むcDNAライブラリーを作製し、Zn-fingerドメインのモチーフとなる塩基配列をプローブとしてスクリーニングし、心筋間質細胞に発現するZn-finger転写因子を単離した。その中で、肥大心や培養間質細胞で発現するクローンを同定し、病態における機能を解析中である。3)ラット乳汁中への老化抑制蛋白klothoの産生系の開発:老化抑制機能をもつklotho蛋白には分泌型が存在する。ヒト分泌型klotho遺伝子をラクトアルブミン遺伝子プロモータに結合して、ラットの受精卵に注入し、トランスジェニックラットを開発中である。
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