研究課題
基盤研究(B)
本年度は本研究の初年度であったので、基本的には各研究分担者の専門領域に関わる個別的な問題が検討された。すなわち、研究代表者伊藤は現代哲学における理解可能性の諸理論を主として科学との連関において吟味した。研究分担者山本は13世紀スコラ哲学を軸とした信仰と合理的理解との関係を踏査し、薗田はルネサンス期のニコラウス・クザーヌスの思想が近代科学といかなる関係を有しているかを吟味した。また、中畑はアリストテレスを中心とした古典ギリシア期において言語と非言語的なものとがいかに連関しているかを、川添は西洋中世において異端的とされた思想家の示した合理性の概念について検討を加えた。また、合同で各自の研究内容を発表し検討する機会をもった。その結果として明らかとなったのは、西洋においては哲学と「合理性」という概念は極めて深い連関があることは承認できるにしても、その合理性の範囲・内実は極めて多義的で錯綜しているということである。このことは、「柔軟な合理性」という新たな概念の本性の探求という本研究の目的にとっては、「合理性」の通俗的な理解をまずは見直し、「柔軟な」という形容をすることが可能となるような領域の存在を提示したという意味を持つであろう。とはいえ、研究はまだ端緒についたばかりであり、「柔軟な合理性」の存在が哲学史上で確認されたにとどまることなく、現代のわれわれの思索にとってどのような役割・位置付けを持つのかという理論的な考察をすすめることが今後の課題となる。
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