研究課題/領域番号 |
11410001
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
伊藤 邦武 京都大学, 文学研究科, 教授 (90144302)
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研究分担者 |
福谷 茂 京都大学, 文学研究科, 助教授 (30144306)
川添 信介 京都大学, 文学研究科, 助教授 (90177692)
中畑 正志 京都大学, 文学研究科, 助教授 (60192671)
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キーワード | 合理性 / 科学 / 制度 / 情念 / 信仰 |
研究概要 |
本研究の最終の3年目にあたる本年度も一方では、昨年度までの各研究分担者の専門領域に関わる個別的な問題が継続して検討された。すなわち、研究代表者伊藤は近現代における宇宙論とその哲学的背景を、分担者中畑はアリストテレスを中心としながら志向性や情念をめぐる問題を、川添は13世紀スコラ哲学全般における哲学と神学の関係や正統と異端の連関を、さらに福谷はカントを主とした近世哲学における自然神学の可能性の間題を、それぞれ吟味してきた。それと同時に、研究の最終年度として、以上の個別研究をふまえた上で、その研究内容を相互に検討する機会を数度にわたってもち、それぞれの領域の問題群が西洋哲学史上でどのように連関しているかという論点と、そこで捉えられた「合理性」をめぐる哲学的立場が現代の哲学的課題にどのような意味で有意義であるのかという論点、この二つの論点を吟味する作業を行った。 その結果、西洋哲学の歴史において、一方できわめて「硬質の」合理性概念が表面に現れていることは否めないとしても、そこからは逸脱するとみなし得るような思想の底流の存在が確認されることとなった。すなわち、古代ギリシア哲学における情念あるいは感情に関する理論のもつ重要性や説得の方法としてのレトリックの問題、中世スコラ哲学において学問的知識がそれとは一見対立すると思われる信念(信仰)と柔軟な関係を保持していること、さらには、近世の形而上学における合理性の最終的な根拠としての神の問題などに、表層的な意味での合理性では捉えきれないものであるにしても、現代において合理性概念を拡大し柔軟なものとするための重要なエレメントを見出すことができるのである。 すなわち、そのようにして哲学史上に見出された「柔軟な合理性」と呼ぶべきエレメントは、「現代において」合理性概念を単純に捨て去るためはなく、むしろそれを広義に解釈することで喫緊の諸課題解決のために有用なエレメントであるという基本的視座を得るに至ったのである。
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